日本金属学会

会長就任あいさつ 会長就任あいさつ

公益社団法人 日本金属学会 
第72代会長 吉見 享祐

 日本金属学会の会員の皆様、このたび、第72代会長を拝命いたしました東北大学の吉見享祐でございます。まだ修士課程2年生だった平成元年(1989年)に初めて日本金属学会の門を叩いて以来、36年の歳月が経ちました。この間、数え切れないほど多くの学びの機会を賜るとともに、金属材料学を志し、共に研鑽を重ねる多くの朋友との貴重な出逢いにも恵まれました。改めまして、日本金属学会には、深く感謝の意を表しますとともに、微力ながらご恩返しが叶いましたら幸甚に存じます。

 さて、その平成元年の頃、日本金属学会ではおよそ1万人の会員がいらっしゃいました。しかしながら、皆様もご存知の通り、平成7年(1995年)の頃をピークに会員数は徐々に減少し、現在は5千人ほどまで低下してしまいました。ただし、この2、3年、会員数の減少は底を打ち、現在は横ばいから微増に転じつつあるようです。この会員数の減少に関しましては、金属学会のみならず、ほとんどの材料関連の学協会で同様の状況にあります。そのことは即ち、時代の変化、また社会構造あるいは産業構造の変化が会員数減少の要因であったことを示しており、そうであるが故に、歴代の理事会もたいへん苦慮されてこられたことと存じます。会員数が多くなければならない訳ではありませんが、魅力的な学会活動という点では会員数の増減は重要な指標の1つです。したがって、状況の改善に向けて、他の材料関連の学協会とも積極的に連携を図りながら、会員サービスの一層の強化による会員満足度の向上や、国際的プレゼンスの向上等による価値創造に努めてまいりたいと存じます。

 この間、金属学会では会員サービスの向上を図るため、様々な取り組みがなされてきました。ここ2、3年ですと、中野貴由前々会長、榎学前会長の下、新しいロゴマークの制定や、ユース会員制の導入、講演大会用アプリの運用、国際セッションの創設や海外学協会との連携、書籍の電子化等々が実施され、また推進されてまいりました。こういった時代の流れをも掴んだ取り組みが、昨今の会員減少を食い止める要因の一つとなっていると考えられます。会員サービスの向上は、引き続き取り組んでいかなければなりません。

 一方で、日本金属学に課せられた社会的役割について、重責を感じずにはいられません。カーボンニュートラルに対して、現状の物質・材料体系だけでは実現は極めて困難であります。国土強靭化に関しても、我が国の社会インフラの老朽化や自然災害に対する新しいインフラ整備に向けて、材料の機能や性能と生産性をますます高めていく必要があります。また今後、一層深刻化する超高齢化と少子化社会に対しては、生体・医療・福祉分野だけでなく、社会インフラの観点からも材料の果たす役割は極めて重要になっています。さらに、近年のデジタルトランスフォーメーションの潮流の中で、それを推し進めるために必要な材料の研究開発に加え、材料の研究開発のためのデジタル技術の利活用、すなわち材料研究分野でのデジタルツイン技術の展開も大きな課題となっています。こういった様々な科学的・技術的課題に対して、日本金属学会は積極的に取り組む姿勢を国内外に示していく必要がございますが、そのためには会員の皆様のご理解とご協力、そして日頃の金属材料学に対するご尽力とご貢献無しでは成し得ません。日本金属学会は、そういった会員の皆様が、いの一番に集えるコミュニティであり続けるために、これからも創意工夫を続けて参りたいと存じます。

 そこで、これからの2年間、これまでの日本金属学会の活動を踏襲しつつ、以下の課題を中心に、会員の皆様のご要望を伺いながら理事会でも協議し、より良い学会運営を目指して参りたく存じます。

① 世代間連携の強化

 先述しましたように、中野前々会長時代に、ジュニア世代への金属材料学の普及と興味関心の受け皿として、ユース会員制度を導入いたしました。現在、290名ほどのユース会員が登録されています。また、近年は、春秋の講演大会にて高校生のためのポスターセッションを開催し、非常に活況を呈しています。ユース会員やポスター発表をされる高校生の皆さんは、金属材料学に理解のある大人(ご家族や学校の先生)と、金属材料学を生業とする大学・国研・民間企業の学者・研究者の方々と、何らかの繋がりがあるように思います。こういった関係作りが広がれば、ジュニア世代にもっと金属材料学を普及させることができるはずです。本会フェローのご協力も賜りながら、世代間連携の仕組みを整えて参りたいと存じます。

② 産学連携の強化

 本会初代会長の本多光太郎先生は、「産業は学問の道場なり」というお言葉によって、学問は産業界での実践を通じて磨かれ、真価を発揮するという実学の重要性を示されました。このことは、日本金属学会の重要な課題の一つであります。しかし産業界にとって、事業の技術内容が一般講演で議論されるなどあり得ないとお考えのはずです。そこで、学会内で産学が議論できる場として産学共創シンポジウムや産学共創研究会が創設されていますが、この二つの一層の拡充が必要不可欠と考えます。加えて、オンラインを活用した講習会や特別講演会など、場所や地域を感じさせないサービスの提供も産学連携強化の一助になるものと考えます。こういった取り組みに対して、より強固な実施体制を構築するための仕組みを整えて参りたいと存じます。

③ 国際的プレゼンスの強化

 国際学術交流委員会主導で、講演大会時に国際セッションを創設しました。この国際セッションを、例えば国際シンポジウム化し、毎回特定の、場合によっては複数のテーマについて議論する場として発展させていきたいと考えています。例えばTMSやMRSのような欧米の学協会の定期講演大会は、すべてのセッションが国際シンポジウムであり、それによって常に全世界に開かれたグローバルな活動になっています。日本金属学会で、 これができないはずはありません。もちろん、数年前から企画申請し、サーキュラーを配布し、海外から招待講演者をお招きする等の様々な手続きが必要になります。そういった作業の一部を本会がお手伝いしながら、Materials Transactionsで特集を組んでいただくなどの工夫によって、国際的プレゼンスは間違いなく強化されるものと考えます。

④ 各種委員会活動の強化

 日本金属学会の最も重要で主要な活動は、春秋の講演大会の開催です。そのために、講演大会委員会や講演大会企画委員会が重責を担ってくださっています。ジュニア世代への普及や世代間連携には、広報委員会の宣伝活動がなくてはなりません。Materials Transactionsをはじめとする刊行事業には各種編集委員会の存在が不可欠ですし、産学連携にはセミナー・シンポジウム委員会が重要な役割を担ってくださっています。国際学 術交流委員会然りです。このように、今後の日本金属学会の発展には、各種委員会の活動強化が鍵を握っています。そしてその多くは、コロナ禍を経て、オンラインの活用により活動形態をより効率的に変化させてきております。しかし、各種委員会の活性化には、やはり対面形式による議論も必要であると考えます。そこで、春秋の講演大会期間中に、できる限り多くの委員会が対面形式で定期委員会を開催できるよう工夫して参りたいと存じます。そして、もし可能でしたら、全委員会合同の懇親会などが開催されるのも、委員会活動の活性化に繋がるように思われます。ただし、日本金属学会と日本鉄鋼協会合同の懇親会が本来その役目を負っているはずで、その点も踏まえて体制強化の仕組みを整えて参りたく存じます。

 

 以上、日本金属学会が会員の皆様にとってより魅力的な存在であるよう、弛むことのない創意工夫と改革を続けて参る所存です。また、風通しの良い学会運営であるために、皆様からの声が常に届くよう尽力して参ります。会員の皆様のご理解とご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

2025年4月25日

入会・会員

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