2022年度新設「若手研究グループ」発足のお知らせ
若手および調査・研究事業を活性化することを狙いとして、若手主体の研究グループを発足しています。
■No. 07.「CO2ゼロエミッション社会に向けた耐環境構造金属材料研究グループ」
2050年のカーボンニュートラル達成を目指して、今後、CO2の収支がプラスマイナスゼロとなるCO2ゼロエミッション社会への移行が進む。残念ながら、2018年の我が国のCO2排出量は11.4億トンであったのに対し、吸収量はたった0.6億トンであった[日本国温室効果ガスインベントリ報告書、2020年]。したがって、CO2排出量の多大な削減が喫緊の課題である。
CO2排出量削減の鍵の一つは構造金属材料である。我が国の主要なCO2排出部門は、金属材料に深く関連している発電(4.2億トン)、自動車(1.8億トン)および鉄鋼(1.4億トン)であり、これらだけで全体の65%を占める。政府が示す2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略においても、発電部門の脱炭素化に向けて、再生エネルギーの最大限導入や水素発電、CO2キャプチャーの推進が明記されている。運輸部門や鉄鋼産業に関しても電動化、水素自動車や水素還元製鉄などの具体的な成長戦略が示されている。
これらCO2ゼロエミッション社会に向けたインフラの劇的な変化に対応するために、構造金属材料の抜本的見直しが必要となってくる。しかし構造金属材料分野は、産業規模が大きいこともあり、簡単には材料特性の改質に迫ることが難しい。この学術的原因は多岐にわたるが、とりわけ力学特性分野と耐環境分野の連携と融合がこれまで弱かったことは大きな反省材料である。力学特性と耐環境特性の双方を並行して研究する大学の研究室は非常に少ない。しかし一方、実用化される材料には力学特性と耐環境特性の両立が常に求められる。今後特に、新しいエネルギー源の置き換えと使用環境の更なる極限化が進行すれば、構造金属材料への環境負荷はますます厳しくなるはずである。例えば、トヨタが積極的に開発を進めている水素エンジン車であるが、水素タンクは水素脆化が起こる環境下に晒されており、こういった環境における材料の変形や破壊、疲労等の理解が強く求められている。同様に、水素エンジン部材は、これまで経験したことの無いような高温高圧の水蒸気に長時間、繰り返し晒される。したがって、構成材料の寿命は、単に温度や応力だけでなく、部材周辺の環境の効果も因子として勘案されなければならない。
しかし若手研究者の大半は、力学特性(物理的性質)か耐環境特性(化学的性質)のどちらかを専門とすることがほとんどであり、双方を並行して研究するだけの経験も知識も、資金もまだまだである。それを補うには、さまざまな学術バックグラウンドの研究者が皆で協調し連携する必要がある。また、同じテーマでありながら異なる視点を持つ異分野の研究者との議論は、同分野の研究者同志では得られなかった発想や課題を見出す機会にもなり得る。
加えて、学界の若手研究者は、企業との連携の経験が乏しい。そのため、学界の若手研究者らは自分達自身のシーズ研究成果の活かし方がわからない。産業界側は学界の若手研究者の研究内容がわからないといったところが実情である。そこで、CO2ゼロエミッション社会に向けた耐環境構造金属材料研究に関して、学界と産業界の間で若手研究者のための情報交換の場があれば、次世代の課題解決に向けて材料科学アプローチの大きな進展が見られるはずである。
目的
そこで本若手研究グループでは、CO2ゼロエミッション社会に向けた耐環境構造金属材料研究を目的として学界・産業界の若手研究者が、カーボンニュートラルの達成に向けて議論を深める場を創生し、耐環境構造金属材料に関する共同研究を開始・実施するための体制構築を目的とする。意義
約30年後のカーボンニュートラルの達成にむけた研究は、現在の若手研究者が問題意識を高め、主体的に取り組んでいかなければならない。本若手研究グループでは、将来の課題解決のためにこれまで近くて交わりが乏しかった力学特性と耐環境特性の連携と融合を目指す。そこで本若手研究グループでは、学界、産業界の若手研究者間の議論を通して、カーボンニュートラルの達成に向け、構造金属材料に課せられる具体的な課題を探索し、その課題解決に向けた共同研究に着手する。この若手研究者ネットワークは、耐環境構造金属材料の需要を認識し、実装に対する産業上の問題点を理解する上でも、極めて重要である。
上述の目的を達成するため、本研究グループには、さまざまな学術バックグラウンドを有する若手研究者が参加している。今後は構成員のさらなる拡充を図り、より一層幅広い分野の研究者らが「耐環境構造金属材料」という観点で議論する場に発展させる予定である。
得られる成果・目標
本研究グループは、構造金属材料の力学特性と耐環境特性を研究する若手研究者らが中心となった新たな研究ネットワークである。そのため、大学間あるいは大学企業間の新たな共同研究や新規研究テーマの創設が見込まれる。また、金属学会においても力学特性と耐環境特性を融合するテーマの新たなセッションを本研究グループで立ち上げることを目標に活動する。今回の研究グループではカーボンニュートラルの達成にむけた具体的な課題の抽出と課題解決に向けた検討を行い、さらに具体的な研究内容に展開する研究会の立ち上げを模索していく。
これら活動を通じた研究成果は、論文や学会発表を通じ、金属学会に還元する。
代表者 | 井田 駿太郎 |
---|---|
東北大学大学院工学研究科 | |
TEL 022-795-7326 | |
E-mail: shuntaro.ida.e1[at]tohoku.ac.jp | |
※[at]は@に変換して下さい。 |